はじめに
ビルのテナントや商業施設などの一画に入居する診療所(クリニック含む)などは、施設
の規模や設備により自家発電機の設置が困難で、多くの場合は停電時の機器への電力供給が不可能となる。そのため、停電により電力会社からの電力供給がストップした場合、全ての
医療機器へ継続した電力供給が不可能である。診療や治療の継続は、電力会社へ復旧までの
時間を確認し各施設での判断が必要である。
この章では、停電中に使用している生命維持管理装置および関連する機器についての対策
を述べる。
バッテリ(UPS・外部バッテリ含む)使用時の注意事項
バッテリ使用時間については、カタログなどでは新品状態での稼働時間を記載しており、使用環境・劣化・治療設定により使用可能な時間が短くなることが多い。
電源遮断時の電力供給
商用交流電源遮断時に、自家発電機からの非常用電源が供給されない場合にも、バッテリ搭載の有無によって対応が異なる。
バッテリを搭載している機器
商用交流電源遮断後にバッテリ駆動に切り替わり機器の動作は継続する。ただし、各機器容量は異なるため、バッテリでの稼働時間を機器ごとに予め確認する必要がある。
停電時間内のバッテリ駆動が不可能な場合には、機器の使用を控えることが望ましい。
バッテリを搭載していない機器
電源遮断時には機器の電源が落ち動作が停止する。突然の電源遮断が起こるため、事前のシャットダウンが不可能である。内部メモリーなどの記録媒体を持っていない機器に関しては、外部バッテリでの対応が望まれる。
生命維持管理装置および関連する機器停電時間帯の医療機器の使用は極力控えることが望ましいが、以下に主な医療機器の対応について述べる。
人工呼吸器
バッテリ搭載機器においては、電源遮断後にバッテリ駆動へ切り替わる。直接生命維持にかかわる重要な機器であるため、予め外部バッテリの準備など、万全な対策が必要である。バッテリが搭載されていない場合、
あるいは万一に備えて用手的換気装置(バッグ・バルブ・
マスクなど)を設置が有用である。
急性血液浄化装置
バッテリが内蔵されている機器が多いが、
ほとんどの機種で 15 分程度の稼働しかできな
い。血液ポンプやシリンジポンプなど体外循環に必要な一部の機能の稼働であり、緊急回収
用としてしか使用できず、電源遮断時には治療中断や転院などを考慮すべきである。
保育器
ほとんどの機種が搬送時のバッテリ対応のみで、電源遮断時の使用は難しい。それまでの温度・加温状況はある程度維持されているが、患者の状況によっては転院などを考慮すべき
ベッドサイドモニタ
バッテリ搭載機器においては、電源遮断後にバッテリ駆動へ切り替わる。機器へのバッテ
リ搭載の有無と稼働時間について確認しておく必要がある。
セントラルモニタ
バッテリに接続されている場合には、電源遮断後にバッテリ駆動へ切り替わる。予めバッ
テリでの稼働時間を確認しておく必要がある。
無線や有線の LAN で情報が機器に送られてくる場合には、その付属機器(中継 HUB な
ど)に電源が供給されないため、ベッドサイドモニタからの情報が送られて来ない事態も考
えられる。
輸液ポンプ
内部バッテリが搭載されており、電源遮断後にバッテリ駆動へ切り替わる。予めバッテリ
での稼働時間を確認しておく必要があるが、バッテリ容量が無くなった場合には、輸液ポン
プを使用せず自然滴下での対応も考慮する。
シリンジポンプ
内部バッテリが搭載されており、電源遮断後にバッテリ駆動へ切り替わる。予めバッテリ
での稼働時間を確認しておく必要があるが、
循環器系など重要な薬剤を使用している場合も
多く、バッテリ容量が無くなった場合には、予備機などで対応する必要がある。
血液ガス分析装置
バッテリを搭載していない場合がほとんどで、予めシャットダウンができないため、外部バッテリなどの準備が必要である。
復電時の注意
商用交流電源の復旧を確認したのち、機器の電源を立ち上げる。バッテリ駆動で動作して
いる機器については、サージ電流(停電からの復帰時に電気回路などに定常状態を超えて発
生する高電圧とこれに伴う大電流)などに注意する必要がある。